こちらは8月に書いたものです☆
台風が上陸した週末・・
『おーい、今日は定時であがれよ』
部長が皆に言う
朝はそんなに降っていなかった雨もお昼を過ぎた頃から
だんだん酷くなり、風も強くなっていた
オフィスにいても窓にあたる雨と風の音で周りの声が聞き取りにくいくらいだ
そして定時のチャイムと共にいつも遅くまで仕事をしている
白鷺課長、創先輩までもが席を立ちオフィスを後にする
(私も早く帰らなきゃ)
周りを見渡すともう部長しかいなかった
『部長は帰らないんですか?』
『ん?白崎を待ってたんだ』
『え?』
『今日は危ないから一緒に帰るぞ』
『でも・・会社からだと、その・・、周りの目もありますし・・』
『台風が来てるんだ、部下を送ってく優しい上司、そんなもんだ』
『でも・・部長の家と方向違うし・・一人で帰れます』
(途中までなんて・・離れるのが寂しくなっちゃいそう)
『白崎の家まで送ってく』
『・・・・・・』
『諦めろ、行くぞ』
『・・・・はい』
(台風がきてるんだし、二人で帰っても変に思わないよね・・)
私は後ろ向きな考えを捨てて部長の好意に甘えることにした
オフィスの外に出ると、中にいた時よりも圧倒的な雨と強風に驚いてしまう
『白崎大丈夫か?』
『はい、なんとか・・』
声を張り上げて部長と会話をする
タクシーを拾うことも出来ないままなんとか駅まで歩いてきた
『うわぁ・・びしょ濡れですね』
『あぁ・・本当にすごい雨と風だな、白崎大丈夫か?』
『はい、部長は?』
『ん?俺は平気さ、それより白崎・・本当に傘さしてたのか?』
『うっ・・いちよ もしかして髪の毛とかすごいですか?』
『・・・・・』
『そ、そんなにですか・・?』
『いや・・濡れた髪が妙に色っぽい』
『えぇ!!な、何言ってるんですか、もうっ』
『ヤバイな・・』
『え?何か言いましたか?』
『いや、タクシーは諦めて電車で帰るか』
『そうですね・・あの列に並んだら何時間かかるか分からないですね』
なんとか電車に乗って最寄りの駅に着き、傘をさして私のマンションまで歩いていた
大声を出して喋らないとお互いの声が聞こえない中・・
先を歩いてくれている部長の後ろを必死でついて行く・・
『きゃっ』
突然吹いた突風に煽られて傘が飛んで行ってしまった
そのままバランスを崩し転んでしまう
『いたっ・・』
後ろの状況も音も聞こえない中先を歩く部長に声も届かず
私はそのまま地面に座り込んでしまう
その時・・通りの向こう側からバイクがこっちに向かって走ってくるのが見えた
(ど、どうしよう・・このままだと接触しちゃう)
なんとか隅に逃げようとしたものの、転んだ時に足を捻ってしまったのかすぐに立ち上がることも出来ずにいた・・
(やっ・・部長)
怖くなって目をぎゅっとつぶった・・
『陽菜』
私を呼ぶ声とともにぐいっと腕を引っ張られた
『陽菜?大丈夫か?』
『はい・・なんとか、ありがとうございます』
部長に支えてもらいながら立ち上がるものの
変に足を捻ってしまったみたいですぐには歩けない状態だった
『足、捻ったのか?』
『そう・・みたいです』
『陽菜の部屋までもう少しだな』
『わっ・・』
急に私の体は宙に浮き、部長に抱っこされていた
『ぶ、部長!?』
『陽菜、悪いけど傘さしてもらえるか?陽菜だけでも』
『歩けます!お、降ろしてください』
『いや、この方が早いだろう』
『でも・・服が濡れて重たくなってるから』
『もうすぐだから大人しくしてろ』
『・・ごめんなさい』
(もう・・私って部長に迷惑かけてばかりだ・・)
雨に濡れていてよかった・・涙が見えなくて
部屋に着いた時には二人ともびしょ濡れで・・
ドアを開け部長がそっと私を降ろしてくれた
『ありがとうございます』
『着替えさせてもらってもいいか?』
『あ、はい・・タオル持ってきますね』
『いや、ここで脱いだ方がいい』
『え?』
『いや・・変な意味じゃないぞ?風呂場までいくまでに部屋も汚れるし』
そう言って私の服に手をかける部長
『って自分で脱げますからっ』
そう言って服に手をかけるけど水分が多すぎて
なかなか上手く脱ぐことができない・・
『ほら、おいで陽菜』
『・・・はい・・』
私の服を優しく脱がしてくれるけど
部長の手が躰に触れるだけでビクンッと反応してしまう
(は、恥ずかしいやら情けないやら・・)
と、その時
部長の唇が私の目元を優しく拭った
『!!!』
『泣いたのか?』
『・・ちょっと』
『なんでだ?』
『だって・・いつも部長に迷惑かけてるし』
『・・・・』
『今も子どもみたいで情けなくて・・』
『そうか?』
『うん・・』
『お前を子どもなんて思ったことないぞ?
それにお前の面倒をみるのは結構好きだ』
『えっ?』
『ん?だってこんな可愛いお前に触れらるし・・子どもにはこういう事はできないだろ?』
『んっ・・』
『このまま温まろうか・・』
『ダメですっ、風邪ひきますよ?今お風呂入れますから』
『じゃあ風呂の中でならいいか?』
『だ、ダメですぅ!!』
『じゃあ風呂が沸くまで』
『ちょ・・んあっ・・ん・・ふぅ・・っ・・・』
冷え切っていた躰はすぐに熱くなって
『ここ濡れてるの雨のせいか?』
『やぁっ・・・そう・・っ・・』
『でもぬるぬるしてるけどな・・』
『んっ・・そんなこと・・・っ・・・あぁっ・・』
『そんな色っぽい声聞かせるなんていけない子だ陽菜は』
そのまま二人お風呂へ入って・・
『くしゅん・・もう部長のバカッ』
『悪い、興奮し過ぎた』
『もうっ!!』
『おいで陽菜、温めてあげるから』
『・・・・・・・・・・・』
『何もしないよ・・』
『絶対?』
『絶対』
そう言って少し少年のような瞳をした部長の大きな腕に飛び込んで
『優しく温めてね』
『・・・・・・・・』
『お触り禁止だよ?』
『はぁ・・』
『ふふっ』
『笑ったな?』
『ふふふっ』
私は幸せな時間を部長と過ごした
『陽菜足は痛くないのか?』
『あぁ、興奮して忘れてた・・もう痛くない』
『興奮・・』
『だからダメですからね!!』
『・・・・・』
部長には奥さんがいる・・
ふと思い出す現実
でも今だけは
この幸せな時間だけは
何気ないこの瞬間だけは
何もかも忘れてあなたの恋人として
甘い時間とあなたの愛に溺れていたい・・
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