学人さんと付き合うようになって1ヶ月
わたしは桐原家で家政婦の仕事をしながら
大学へ復学し充実した日々を送っていたのだが・・
ここの所学人さんの帰りが遅く
同じお屋敷に住んでいるのに会えない日が続いていた
ある日の夜・・
キッチンで明日の朝の仕込みをしていると玄関のドアが開いた
(もしかして学人さん?)
私は急いで玄関へと向かう
そこにはずっと会いたかった人の姿
『学人さん!お帰りなさい』
『やぁ、子猫ちゃん まだ起きていたのかい?』
『・・・・学人さん?』
久しぶりに見た学人さんは珍しく酔っていて
お酒と香水の匂いがした・・
(女の人の香水の匂いだ・・)
『愛しの子猫ちゃんおいで』
そう言って私を抱きよせる学人さんの腕の中にすっぽりと入ったけど
間近でみる学人さんのシャツの襟には女性の口紅が付いていて
知らない女性の香水の匂いに私は悲しくなって
学人さんの腕をすり抜けようとした・・
『逃がさないよ』
『やだっ離して下さいっ』
学人さんの強い力には敵わなくて
唇に熱いキスが落ちてきた
でもそれは学人さんの存在は感じられないほどに
お酒と香水の匂いがして
『んっ・・やぁっ・・・』
学人さんの肩を押してもビクともしなくて
ただただ嫌悪感しかしなくて・・
『やぁ・・っくぅ・・・ふぅ・・・ひっく・・・』
涙を流して抵抗する事しか出来なかった
そんなわたしに気付いた学人さんは驚いた顔をして
そして
『ごめん・・』と
とても悲しそうな瞳をしていて
『あの・・ごめんなさい』
私はそんな学人さんを見ていられなくなって足早にその場から離れた
急いで自分の部屋に向かう途中・・
『どうしたんだ?』
充さんに声をかけられた
『なんでもないです・・』
そう言って俯く私に
『学人か?』
『・・・・・・・・・』
『アイツは今、女性のボディーガードをしていると言ってたな』
充さんは独り言のように話す
『とても重要な仕事で朝から夜遅くまで一瞬たりとも気が抜けなくて
1秒たりとも依頼人の傍を離れられなくて・・』
『分かっています・・学人さんが仕事に一生懸命なことは・・そんなこと・・』
『では何故そんな悲しそうな顔をしている?』
『分かっているのに受け止められない自分に嫌気がさしているだけで・・』
『・・・まぁ、もうすぐ今の仕事も終わるだろうから、ゆっくり話し合えばいい』
『はい・・ありがとうございます』
『お前が元気ないとこの屋敷の中も暗くなるからな』
『充さん・・・』
『おや・・学人にしては珍しい姿だな 邪魔者は消えるか・・』
『学人さん・・』
『さっきはごめん』
『・・・・』
『今時間あるかな?』
『はい・・・・』
学人さんの部屋で
『そこ座って?』
『うん・・』
『陽菜に仕事の話をしたくてね』
『でも・・学人さんの仕事内容はシークレットじゃ』
『陽菜には話しておきたいんだ・・そんな悲しそうな顔をさせたくないんだ』
『学人さん・・』
『今ボディーガードをしている女性はね・・昔世話になった人でね、どうしても断れなかったんだ』
それから学人さんは今回の依頼内容を話してくれた
ホテルに帰るまではずっと傍を離れられないこと
どんな場所でも付いて行かなければならないこと
時には恋人の振りもしていること
『陽菜・・俺はこういう仕事をこれからもする事があると思う』
『うん・・』
『その度に陽菜に悲しい想いをさせるくらいなら
この仕事をやめてもいいと思ってる』
『・・・え?』
『陽菜のそんな悲しい顔はみたくないんだ』
『違うの・・学人さん』
私は思っていることを学人さんに伝えようと口を開いた
『学人さんが仕事している姿は大好きだよ?それは何の仕事でも同じ・・
仕事に一生懸命な学人さんはすごく素敵だし、仕事に夢中になりすぎて
たまに私の事を忘れちゃう学人さんも・・寂しくないって言ったら嘘になるけど
それだけ仕事に夢中になれる学人さんはすごくかっこいいです!』
『陽菜・・』
『でも・・私はまだまだ子どもで・・頭ではちゃんと分かっているのに
今日みたいな学人さんの姿を見ちゃうと・・やきもちを妬いちゃうっていうか』
『やきもち?』
『うん・・だって』
『ん?だって?』
『あの・・香水の匂い・・嫌い』
『うん、ごめん』
『シャツの襟にも口紅ついてるの嫌・・』
『ごめん・・恋人のふりしてたら彼女がね俺にキスをしとうとしてきたから
咄嗟に避けたらシャツに付いてしまってね』
『避けた?』
『そう、だって俺のここに触れていいのは愛する子猫ちゃんだけだろう?』
『学人さん・・』
『まぁ、その後たっぷり怒られたけどね・・昔はそんなんじゃなかったのにって』
『昔・・・・・』
『そう、昔の話・・今は大切な子がいるって言ったら笑われたけどね
学人も変わったのね、なんて』
『・・・』
『俺はもう陽菜しか見えないからね』
『学人さん・・』
『この仕事もあと少しで終わるからそうしたらデートしよう』
『本当ですか?』
『ふっ』
『?』
『やっと笑顔になったと思ってね』
『あっ・・・』
『可愛い子猫ちゃんにキスをしたいところだけど・・
まだ香水の匂いがするからお風呂に入ってこないとね』
『うん・・』
『一緒に入ろうか?』
『えっ?』
『おいで』
そう言って私の手を握る学人さん
『む、無理です!』
『どうしてだい?子猫ちゃん』
『だって・・恥ずかしいです』
『さっきは充くんと二人きりで話をしていたじゃないか』
『へっ?あれは話をしていただけだし・・・』
ってなんで怒ってるの?もしかしてヤキモチ妬いてるのかな?
『ふふっ』
『なんで笑っているんだい?』
『いえ、学人さん可愛いなと思って』
『・・・行こう』
『えっ!だから駄目ですって!!』
『俺をじらして楽しもうなんて子猫ちゃんも大胆なことするんだね』
『いや、だから本当に恥ずかしいんです!!』
『はやく陽菜にキスしたいから・・』
もう・・そんな色っぽい顔で瞳で見つめられたら
『電気暗くしてくれる?』
『そのくらいは妥協するよ子猫ちゃん』
『きゃっ』
私を軽々持ち上げてバスルームに向かう
はやくこの匂いを消して学人さんとキスしたい・・
『ん?子猫ちゃん顔が赤いようだけど?』
『な、なんでもないです』
熱くなる頬を隠すように学人さんの首に腕をまわした
お風呂では・・
『学人さん!電気暗くして下さい!!』
『でも暗くしたら俺のこの綺麗な躰がよく見えないだろう?』
『・・・・・・・・・もうっ!!学人さんの嘘つき!!大嫌いっ!!!!』
『大嫌い・・・そ、う・・・・・・・・・・』
『いや・・そんな落ち込まないで下さいよっ!!』
『・・・・・・・・・・』
『いや、そんな瞳で見られても・・・もうっ分かりました!電気はそのままで良いですからっ』
『これで俺の躰も子猫ちゃんの躰もよく見える』
『はぁ・・・・学人さんには敵わないなぁ・・』
笑
0コメント